今回の内容は、若い勤務インストラクターには、心して読んでいただきたい。
弊社は30年以上、ダイビング事業者として、初心者からプロや指導者の育成はもとより、独立・起業の支援まで行っている。また、並行して、不動産や金融の投資家、IT系ビジネス・コンサル行政書士、ファイナンシャル・プランナーという立場から、多面的な視点でダイビング業界に関わっている。
過去には、阪神淡路大震災、リーマンショック等を経験しながらも、変わらず、ダイバー育成、プロやスクールへの様々な支援を続けている。
しかし、ここしばらくのコロナ禍に加え、ウクライナ危機からの経済不況が進むと、今後、勤務インストラクターは、熱意だけでは耐えられないような、大きな苦難に直面するであろうと警告しなければならない。
経営資産を持ち、その蓄積がある独立・起業組のインストラクターと違い、サラリーが全ての勤務インストラクターを待ち受ける今後の情勢は、阪神淡路の1.17やリーマン・ショック、津波の3.11等による苦境の比ではないだろう。
1.17震災後は、日本の実質賃金はやや上昇していた。また、ダイビング映画やバブルの名残りもあり、ダイバー人口の増加がダイビング業界を下支えしていた。
しかし、その後、日本の実質賃金は下がり続け、人口も減少を続けている。
そもそも、勤務インストラクターの賃金は、平均的な賃金よりかなり低く、年齢による賃金アップは他業種に比べ小さすぎるため、長年勤めて能力を高めても、実質賃金の減少をカバーできるものではない。
就職したての新卒当時は、他業種の新卒社会人よりサラリーが少々少ない程度に思われても、10年も経てば、同級生に話せないくらい賃金格差が開いている(低賃金である)ことに驚愕する人も少なくない。
それだけではない。今後は、過去の浮き沈みとはケタ違いに、更に厳しい環境となることが予想される。
震災やリーマンショック後と同様に、コロナやウクライナ危機がひと段落すれば…と、「根拠のない甘い考え」を持ってる人は、方向転換できない年齢になってから、現実を目の当たりにして愕然とすることだろう。
日本自体、既に、ナントナクでドウニカできる裕福な国ではない(下図)。
リーマンショックでの不況では、スクールが激減(兵庫県ではPADI公認スクールは半減)したが、半減することで残ったスクールが持ちこたえられた。
また、勤務インストラクターにしても、日用品の物価安が進んでいた時期だけに、賃金上昇が僅かでも、気になりにくかったかもしれない。
しかし今回は違う。全く異次元の状態だ。
ご存じの通り、世界中、全ての物価が上がっていっている。それも急速に。
テレビで連日報道される、食料品やガソリンだけではない。
消費者物価指数では認識しにくいが、自動車、建築工事(下図)、各種保険、つまり日常生活に欠かせないものは勿論、人生において必要とされるあらゆる物の価格が上昇している。
他業種と異なり、平均的な勤務インストラクターの賃金は僅かしか上がっていないのに…だ。
自動車価格はジワジワと、実感しにくいペースで、実に2倍にも上昇し、今も上がり続けている。
正社員でありながら「車を買わなくてもいい生活」ではなく、「車が買えない生活」の人も居ると耳にする。
チェーン店に就職し、勤務地が変わることが多く、住居への思い入れが少ない人は特に要注意だ。
建築価格も上がり続けている。
資材だけでなく、建築業界の賃金も上がっているからだ。
平均的な勤務インストラクターのサラリーだけでは、家を買うことができなければ、その職能しかないまま年を取ると、老後アパート暮らしをすることさえも容易ではなくなるだろう。
年を重ね働けなくなっても、当然に家賃も上がっていくからだ。
社会情勢に目が向き、自身の置かれた状況に気づいた人から、将来設計について、転職について、また、独立・起業についての相談をされる。
しかし、方向転換するには遅く期を逃した人が多い。
気づいた時には、既に選択肢が激減した状態で相談に来る。
はっきり言っておく。
転職や独立・起業を考えるのであれば早い方が良い。
時期を逃して、手遅れになった人を何人見てきたことか。
辞めるタイミングを逃した人は、辞めにくいまま抜けられなず、ババ抜きのババを掴むことになる。
バブルがはじけた時のソレだ。
状況判断が遅すぎる。
若い従業員だらけのスクールは、既に皆、ババ抜きから上がってしまった会社だ。
そして、問題は辞めることではなく「その先」。
長引くコロナ事情に、輪をかけたウクライナ危機による経済状況の悪化により、失業者が増え、求人倍率は低下している(下図-日経新聞)。
既に争奪戦が始まっている。
今後は、一層の厳しい椅子取りゲームとなるだろう。
転職の決意が遅くなるにつれ、良い職ほど、能力が高く職業経験の有利な人で埋まり、レジャーの世界で楽しく過ごしていた人には、選択の余地が無くなっていくのは目に見えている。
まさにアリとキリギリスだ。
退職や転職について上司に相談すると、恐ろしい含みに気づかない人が居る。
「今、辞めても他にいい職は少ないだろう。」
行間を埋めるとこうだ↓
「この会社で飼われてた今の君の職能で、辞めても他にいい職は少ないだろう。だから諦めてこれからも貢献せよ。」
今ですらそうだが、長居すれば、更に機会は減る。
こんな状況下で、残された可能性を摘む上司の言葉を、真に受けて長居しようものなら、取り返しがつかない状態になるのは火を見るより明らかだ。
不況下にコストのかかるチェーン・スクールの一部では、従業員の個人的なSNSや、他のスクール、インストラクターとの交流が禁止されている。
外部情報から現状を認識することで、士気が低下するのを防ぐためだ。
他との交流が遮断された状態で、高額商品を売ることだけに集中させられている。
この様な環境で、何の職業能力が身についているだろう。
嘘で固められ、ウクライナの過酷な戦場で、十分な物資も支給されないまま無茶苦茶やって来いと言われて送り込まれた、使い捨てのロシア兵が思い浮かぶ。
上司を信じて正しいと思ってやっているのに、実態は世間に非難されている。
コストを抑えた経営へシフトできているスクールはともかく、人件費や家賃、リース等のコストがかさむ経営をしているスクールは、縮小せざるを得なくなるだろう。
その負担は、まず従業員にのしかかる。
判断が遅れれば遅れるほど、良い椅子から無くなっていく。
いや、もっと率直に、社会復帰の機会が無くなっていくといった方が良いか。
あらためて若い勤務ダイビング・インストラクターに警告する。
今この時に、現状に目を向けず、これまで同様の活動に、いつまでもこだわってしまう人は、熱意だけでは耐えがたい苦難への覚悟が必要だろう。